あかるい霧雨の降りつづける国に
- すずめや

- 2025年12月7日
- 読了時間: 3分
金色の姫は森の真ん中へ捨てられた。
反逆が起こり、砂糖菓子の城は細かな粉をあげて崩れてしまったので。
王と妃は砂糖菓子の城の粉で窒息して死んでしまった。
牙のある、黒く固くひかる触覚を持った六本足の虫が土の大地の国からやってきた。大きな顎と溢れるちからで砂糖菓子の城の残骸を自分たちの国まで運搬しにやってきた。黒い虫の隊列は、とにかくすべての残骸を運んでしまうことにした。
土の大地の国へ帰った黒い虫は、ひとまわり小さい黒い虫と手分けして砂糖菓子とそれ以外の残骸をより分けにかかった。そうしてお砂糖でないものは、森の真ん中に捨てられた。
誰かの必要でないものは、森の真ん中でちがう誰かに必要とされる循環があった。
金色の姫は黒い虫の必要なものではなかったので、森の真ん中へ捨てられた。
金色の姫はまだ形もおぼろな幼い姫だった。
もう少し父母のもとで大きくなれば金色でなくなってかたちもしっかりしたのだが、金色の姫にはまぶたがかろうじてあるぎりだった。豊かで柔らかい髪があるぎりだった。
金色の姫はまだ無機物だったので食われはしなかったし、飢えもしなかったが、幼かったので寂しいと思う心はあった。幼かったので、自分の身に何が起こったのか理解しきるのは難しかった。
金色の姫はあまりに頼りなく脆かったので、黒い虫は残骸のてっぺんに金色の姫をそっと置いて離れていった。
寂しい金色の姫はてっぺんで座って幻のようなまぶたで涙を落としていた。
そうして幾日か経って、森に雨が降った。
金色の姫は森に連れてこられてはじめて、触れても自身に傷のつかない優しいなにかに包まれた。雨は金色の姫の豊かな髪の筋に沿って流れていくつめたい小川になった。
雨は一晩で止んだ。
幼い金色の姫は、雨がどこかに行ってしまったのだと思って、雨を探しにいくことにした。
ごちゃごちゃしたがらくたと屍肉のかたまりの山の上から降りていくことにした。
金色の姫の豊かで柔らかな髪は若い木の小枝にかかるだけで千切れてしまうほど弱く、落ちて来る枯葉ははさみのように髪を切った。
金色の姫が山の上から降りてゆくそのあとには、汚物の中に幾筋かの柔らかな金色を残した。
餓えない疲れない無機物の金色の姫は当てもなく歩き回って森のなかに金色をこぼしながら雨を探した。
ちくちくするしげみを抜け、固い草むらを抜けて、ふと足元の草が柔らかな新芽に変わったその先に、懐かしい微かな水音を聴いた。金色の姫は一本の川にたどり着いた。
嬉しくなって金色の姫は川の流れに身を横たえた。すると川は金色の姫を乗せて流れてゆくのだ。さんざ千切れて縮れてしまった金色の姫の豊かで柔らかな髪も、川の流れに沿うてまっすぐに煌めいた。
金色の姫はだれにもなににも傷つけられないことをただ嬉しく思って流れていった。川はだんだんと太ってゆき、そうして滝に流れ着く。金色の姫は川の真ん中から滝の真ん中へと落ちてゆく。
初めて聴く轟音の水音の隙間に、金色の姫は懐かしい優しい雨の音を聴いた。
滝の流れのカーテンを開けて滝の裏側に入ってみると、そこには広い洞窟が口を開けていた。懐かしい雨の音は滝のしぶきの作る霧雨の音であったのだ。滝のカーテンはひかりをうけて白く輝き、あたりにはずうっと霧雨が降り続ける。
金色の姫はその白い滝の奥で、砂糖菓子の城に住んでいたころの甘い夢ばかりみて過ごすことにした。







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