大風の散歩
- すずめや

- 5 分前
- 読了時間: 2分
周りはずいぶん紅葉が進み、すべての葉が化粧をしている。
季節の変わり目には大風が吹く。
今日はそういう大風の日の散歩だった。
雫石でも毎日のようにクマに襲われたニュースが入ってくるのでポケットに大きなスピーカーをむりやり詰めて散歩に出る。
外に出た時分には細く柔らかな天気雨が降っていた。
いつか見た、砂糖を煮詰めて細く落とすことで作られる、蜘蛛の巣のような、雲のような、繊細な飴細工によく似たひかりかたをしていた。
高くなった秋の空はうす青く、ひかりもずいぶんオレンジがかっていて、照らされる薄い雨の糸はそのまま飴の糸のように見えた。
猫たちは窓の外で舞う葉っぱを追いかけるようなところがあるけれどぬげたはなんにも構わずにゆく。
ぶあつくなった落ち葉のふかふかの道をしゃくしゃくと4本足で細かく踏み砕きながらゆく。
落ち葉の道を通ることも、舗装された道を通ることも、ぬげたにとってはあまり変わりのないことみたいだ。
雨の雫でぬげたの黒いからだがすこしずつ白くひかりはじめる。
折り返し山道を我が家に戻るころには雨がやんで、風がまた強くなった。
誰もいない広い山道、スピーカーで流す大音量のエディットピアフ、空いっぱいの落葉たちは大風に乗ってすごい速度で並んで右にゆくこともあれば、ふとゆるんだ拍子に浮いたり沈んだり元来た場所に帰るように舞う。
シャンソンの不思議なリズムがまるで葉っぱと風の動きに沿うようで魔法をみているみたいだった。
エディットピアフはみためだってなんだか魔女っぽいしもしかしたらそれくらいのことはできるのかもしれない。
彼女の声に合わせて右へ左へ舞う枯葉。
美しい美しい、美しい散歩だった。
近ごろのクマはクマよけの鈴の音に寄ってくるらしいという怖い噂がある。
音を鳴らすならできるだけクマが聞いたことのない音でかつ人間の声が響くものがいいということで山に入る人々の間ではラジオが活用されているそうだ。
ということでヴォーカルのある音楽を散歩のお供にしている。
でも一度くらい、この枯葉の舞う中で、ビルエヴァンスを響かせるなんてベタなことをしてみたい。
うちのまわりのクマはきっとピアノを聴いたことがないんだから、それもいいかもしれない。
もしも遭遇したときに威嚇に使えるよう、マキシマムザホルモンはすぐ再生できるようにしてあるし。









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