やまんなかいこう
- すずめや

- 11 時間前
- 読了時間: 3分
ここ数日ぬげたの散歩を担当していた。
雪解けも進みまわりの山のなかはやぶもなく、吸血虫もほとんどいない。枯れ葉の地面にはだかの木々が立ち並び見通しが良い。なにも芽吹いていないので貴重な草木を踏んでしまうこともない。山のなかにわけいっていくには最も安全な季節である。
というわけでぬげたをいつもの散歩道から外れて山んなかにいこうと綱を引っ張っていった。かねてからあの木の近くにゆきたいと思っていた木が見える。歩道から10メートルもないくらい。そんくらいならばぬげたも付き合ってくれるはず、さあいこう友よ、ほんのちょっぴりの冒険だ。
だがしかしぬげたは踏ん張る。
山んなかに入ってはくれるが、せいぜい行っても4、5メートル、だいたい2、3メートル付近で歩道にもどりたがる。おめえそれじゃ冒険になんねえだろうが。綱を引っ張ってもたっぷりとしたあごの毛皮が首輪に押されてマフラーのようになってぬげたの顔面までが中央によってくしゃりとなる。ぬげたはくしゃりとなって小さくなった栗色のひとみでこちらを見つめ、そっちのほうには行かないと頑なである。
そんならいいよと諦めていつものお散歩コースの歩道に戻る。
違う日には雪のまだ残る場所に綱を引っ張っていった。その日はぬげたのテンションが低めだったから。ぬげたは雪が好きだ。雪のところには思ったよりも入っていってくれて、はしゃいでいるようだったけれどわたしの長靴にでかい雪のかたまりが入り込んでしまった。ぬげたも喜んだようだと満足してお散歩コースに戻ったが長靴のなかの雪のかたまりを踏みながら歩いてしまったため足先がひどいことになって、もうええわと長靴を脱いで片手に持ち、もう片手にはぬげたの綱、そして靴下で歩道をぺたぺたと歩いた。
靴を履かずに地面を歩くと気付かなかった自分の歩き方のくせがわかった。かかとからおろして足の裏全体でぺたぺたと歩く。ぬげたは爪をちゃかちゃかといわせて歩く。人のいない道のどまんなかを大きな犬を連れて靴下でゆくのは愉快であった。でもこれは人がいないからこその自由さ、愉快さであるから人家のある場所には寄らずに歩数を稼ぎうろうろした。はたからみればわたしは靴を持っている。持っているのにわざわざ脱いで初春のまだつめたい道を靴下で歩く犬連れの女。事情が全くわからなくて怪しい。誰にも会いませんように特に顔見知りには、と願いながら帰路に着く。願いは叶って顔見知りは通りがからなかった。だがしかし、観光で通りすがったのであろうでっかいランドローバーに乗っておしゃれなサングラスをかけたいけてる男女2人組に見られてしまった。このあたりではめったに見かけないいけてる男女のペアがこんなタイミングで。これなら顔見知りに出会ってどうしたの、などと半笑いで聞いてもらった方がまだよかった。


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