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しっとりと山の中

  • 執筆者の写真: すずめや
    すずめや
  • 7月15日
  • 読了時間: 3分

久しぶりのうちだ。

さすがにくたびれてなかなか仕事は捗らなかった。

怠惰な餅のようにぺとぺと仕事を進めていた。


出張中に夫が家をぴかぴかに掃除してくれた。

まだ岩手は梅雨の最中で、山に囲まれ川のそばの我が家はまるで水の中にいるような湿気に包まれる。

せっかく綺麗な床もぺとりとしており、紙も波打ち、ちょっとまずい状態。

これはいちど湿気を飛ばさなきゃならない。

薪ストーブを焚かなくちゃ。


不思議なもので冬はあんなに暖かい薪ストーブだけど、湿気飛ばしに少々焚くくらいではそこまで気温はあがらない。

京都の灼熱を体験してきたわたしには屁でもない。

猫たちにとっても屁でもないようでむしろのびのびとアトリエに寝転がっていた。

傲慢が少し頭をもたげる。

この猫たちのおさまっている小さなクッションも、お気に入りの椅子も、わたしが仕事をがんばって買ってあげたものなんだよなあ、と考え、にやりとした。


胃の調子が悪いのでお昼は夫が冷麦をしてくれた。

北海道で買ってきたグリン麺という謎の冷麦、いなかった間に集落のご婦人にいただいたきゅうりと冷えただし汁に畑の青葉、すりごまたっぷり。

ひさしぶりに一食、まともに食べることができた。

食後はなんとなくぽろぽろと2人で畑に出て、わたしは草をむしり、夫はなにかしら野菜の世話をしていた。

余らせてしまった緑茶を煎りなおしてほうじ茶にする。

夏は冷たいほうじ茶が欲しい。


夕方になると夫が仕事に出てゆき、わたしは家でまた仕事をすすめる。

人間がひとりになると、猫たちの目がいつもわたしに向くので嬉しい。

ぬげたはしょっちゅう寝転がっていてあんまり気にしてくれない。

猫たちは少しだけの仕事で座った椅子のそばにやってきて、立ち上がるとついてきて、すれ違うとこちらを見る。


ひぐらしが鳴きはじめ、スピーカーをつないでニーナシモンに歌ってもらう。

青く暮れ始めた、雨でしっとりとした山の中で、しぐれのように鳴く蝉の声を背負って、まるで大樹の幹のような太く強い歌声がひびく。

あくびをしている猫と目があうと、猫はあくびをやめてしまった。

猫のごはんの時間には、カリカリをもったわたしにむかって歓喜の鳴き声を上げる四匹。

わたしは猫の餌を買ってよかったなあ、と毎日思う。


夫のためにごはんを炊きだめする。

うちには炊飯器がないのでお鍋に炊いたのを冷凍ストックしておく。

氷も割って、お茶を冷やして、お風呂を入れて、絵筆を洗って、紙の束も片付けて、さて、では晩のおかずを作ろうか。


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