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東川町へ

  • 執筆者の写真: すずめや
    すずめや
  • 7月7日
  • 読了時間: 4分

北海道は東川町へやってきた。

始発の盛岡発の新幹線に乗って、仙台空港まで電車を乗り継ぎ、新千歳空港に降り立ち、電車をまた乗り継いで旭川駅まで、駅に迎えにきてくれた主宰さんの車に作家仲間と乗り込んで、いざ会場へ。

家を出てから8-9時間ほどか。


えっちらおっちらと遠くに来たけれど、見知ったいつものメンバーとのゆるやかな設営作業はまるでお誕生日会の飾り付けでもしているようで、何かいいことが起こることをもうすでにからだぜんぶで予感している全員の空気が重さをもって揺蕩っており、それは深く眠って夢を見ているときのあの感覚にとても近いものだった。


車で来ているメンバーそれぞれに車を持っていないメンバーが乗せてもらっておのおのの宿へ。

今回はなんとわたしのほかに3人もおなじ宿をとっていて、もうこれはほとんど修学旅行だ。

わたしは本当のお誕生日会にも、修学旅行にも、なんだかあんまり素敵な記憶がないようだ。

(ずいぶん忘れてぼんやりしている、たぶんすこしくらいはあったんだろうな、とは思っている)

だけどこの日々は、ずっと、楽しいお誕生日会のようで、楽しい修学旅行のような毎日だったのだ。


宿の部屋は元は寮か安アパートかというようなたいへん味のあるものだったが、一階にでっかいお風呂がいくつもついている。

そもそもお風呂屋さんをメインの仕事でやってるみたい。

ぬるい炭酸泉、薬湯、熱いジェット、サウナにロウリュ。


わたしは長らく大衆浴場が苦手だった。

知ってる人と湯船で鉢合わせする可能性があるなんてもっと嫌だ。

だけどなんだか素直に入れた。

すこし前にずっと持ってた人生の重荷が解けたことがいくつかあって、そこからおそらくじわじわ変わっていってはいて、この特別な三日間の仕事のなかでは、空中に浮く風船のような素直な緩やかさでいられたと思う。


それにはともかく主宰さんのひかりかがやく善の力の強さがある。

建前ではない、誇張でもない、ごまかしもない、ただまっすぐ良き方へと前を向き努力しきちんとつかむ。

いつも彼女は四月の太陽のように笑っている。

満開のモッコウバラのように、真っ白い仔犬のように、色づいたさくらんぼのように、夏の渓流の水面のきらめきのように、笑っている。

誰にも彼にも無理をさせない、みんなで楽しく過ごすことを、真に願ってそのように努力して、つかんだ。

我々がここにいることを楽しむことは、彼女の努力に報いることでもある。

そうやって太陽はひかりかがやく場所を作った。


マーケットは三日間とも盛況にかつ和やかに進み、去年出会ってくださったおきゃくさまが覚えていて待っていてくれて、会場に来てくださったことも多かった。

ここで初めて出会ってくださって、お供に迎えてくださったかたも多かった。

東川町は写真の町だということで、会場には写真を飾るための什器が充実しているそうで、個々のブースにピン打ち可能な巨大な壁面が与えられ、わたしはもってきた全てのパネル作品を壁に飾ることができ、特に思い入れのある初めての作品をふくめてふたつが旅立った。

ノートたちもたくさん旅立っていった。


それぞれの日々の終わりには、やれおやきやさんに行こうだの、公園に行って遊具で遊ぼうだの、ジンギスカンにいこうだのと遊びまわり、それぞれの日々のはじまりには、やれ道の駅に行こうだの、あの神社に行ってみようだの、図書館に行ってみようだのと遊びまわった。


仕事の終わった次の日のきょうなんか、朝からずーっと遊んでいた。

次の木曜日には京都入りをしなきゃならないので、いったん岩手に帰るのは交通費的にも厳しく諦めて、すこし北海道に滞在することにしたのだ。

朝から車に乗せてもらって車窓を流れてゆく美しい北海道の風景をしこたま見た。

動物園にもラベンダー畑にも無人駅にも行った。

みんなでベンチに座って安っぽい焼きそばを食べ、やっぱこういうとこの焼きそばはこうじゃないとねなんて笑ったり、かき氷やソフトクリームを回して食べたり、ちっちゃな丼をひとくちずつ交換してかっこんでみたり、しょうもない集合写真を数えきれないほど撮った。

わたしは今日、仕事のメールもSNSの投稿もほとんどせずに、ずうっと全力で遊んでいたのだ。

こんなこと、もう何年振りのことだかわからない。

いまになっても、あのとき、始発の新幹線に乗ったときから、ずうっと夢の中にいるみたいで、しかも幸せな夢の中にいるみたいで、見たこともない青春映画の中にいるみたいで、こういうのを斜めから見て唾を吐くようなわたしだったことのほうが人生においてはずっと長いというのに、いやはや四月の太陽のひかりの強さには恐れ入る。

なんと世界は美しいことだろう。


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