いちにち
- すずめや
- 3 時間前
- 読了時間: 6分
明日から10日以上かかる出張だ。
早起きしてとりあえずパソコン仕事を片付ける。
ほんとはもう一週間分くらいやっておきたかったけどいったん大丈夫なところまで、いっこずつ終わらせよう。
あとで余裕があったらやればいい。
パソコンの椅子に座るとかならずヤン子がやってきてゴロゴロいいながら膝の上で眠る。
朝ごはんを食べるほどでもないがおなかがすいたので、きのう夫が焼いたパウンドケーキをかじる。
途中の作業を片付けにかかる。
とにかく紙は背中を固めておかなきゃならない。
ばらばらのままでは不在のうちに猫の運動会に巻き込まれてぐちゃぐちゃにされるのが目に見えてる。
これがおもいのほか時間がかかった。
おもいのほかっていうか、ふだん別に時間を意識せずに作りほうけているのでこれってこんなに時間かかるやつだったんだなというかんじ。
ちなみに今回もどれくらい時間がかかったか、具体的な数字を見てなかったので次も同じようなことになるだろう。
作業中はヤン子とめーめがアトリエの、わたしの目の前のクッションにそれぞれ寝ていた。
めーめはたまに寝言をいいながらからだを震わせる。
ヤン子はちらりと顔を見せては去っていくぬげたや、窓の外に夫が登場するたびにこまごまと起きていた。
アトリエのでかい窓ごしに、夫がなにかを両手で隠してやってきた。
以前そういうしぐさをしていて、なになに?と覗き込んだら芋虫がたくさんだったことがあり警戒して近づいてみるが、どうもいたずらではないみたいなのでみせてもらう。
きのう、わたしがこんな模様のこんな色の綺麗な蝶を見たと話した、その蝶だった。
オオムラサキという蝶なのだそうだ。
間近で見ても美しい蝶だった。
それにしてもなぜ夫は野生動物を素手で捕まえようとするのだろう。
畑いじりもなぜか基本的に素手だ。
作業作業と進めてゆき、お昼は夫がそばときしめんをゆがいてくれて初夏らしいさっぱりとした昼食だった。
おつゆには畑で採れたネギがたくさんはいっている。
蝶々のお礼にアイスコーヒーを淹れようかと聞いたらペットボトルのコーヒーがあるからいいと断られた。
食後にぬげたをすこし外に連れ出してブラシをかける。
毛の抜ける時期だ。
ぬげたはフケがでやすいし、アンダーコートがしつこいのでよくブラシをかけなきゃならない。
仕事に戻る。
途中途中で出張のためのスーツケース荷造りをはさむ。
夏なのですこし衣類を多めに持って行かなきゃ。
出張用の圧縮袋を新調したらものすごい衣類がちぢむので心強い。
しかし現場で使うものやぎりぎりまでできなかった作品もつめなきゃならない。
これはいちいち終わらせたのから詰めるのだから作業してる途中でこいつは用済みだから詰める、というふうになる。
アトリエと廊下を行き来してうろうろしはじめるとヤン子が先回りして、てーん!と腹を出してころがる。
お腹を揉んでのおねだりである。
気が焦ってもうやだあとなってきて濃いめにアイスコーヒーを淹れる。
立ったままぐびぐび飲む、台所の窓越しに畑仕事をしている夫が見える。
空はかっと青く澄んで、初夏の緑が風に揺れ、鳥もぴいぴい鳴いていて、なんとのどかなよき風景。
なぜわたしひとりがこんなに焦っているのだろう。
息抜きにモンティーヌのブラシもかける。
モンティーヌもフケが出やすく、かつ抜け毛の量が多い。
ごしごしこすっているとそばにいたみんみが急に起きて窓にへばりついた。
頭が白まだらで、片方の羽に青色が入っていて、クチバシが黒くて、全体としては焦茶色のハトよりひとまわり小さいくらいの鳥がプランターのイチゴを啄みにきたのだった。
作業をすすめる。
夫から動画が届く。
先の蝶が二匹、羽を揺らしてとまっている動画。
お返しにヤン子が蜘蛛の糸に揺られる木の葉をみつめている動画を送る。
作業をすすめる。
夫は仕事に出て行った。
待ちかねていた紙が届いたので染める。
ちかごろは装丁を染める、という言葉で表すのがしっくりくる。
八月の個展のためのパネル作品もすすめる。
パネル作品は一層をつくるのに一日乾かしているので、ただ絵の具をこすりつけただけだ。
でもこちらは描いた、というかんじがする。
バケツと筆を洗い、時間をみるともう仕事を終えるべき時間が迫っている。
夫は仕事に行ったのだしもうちょっとアレをアレするまでやっちゃおうか、という考えがよぎる。
けど明日は始発の新幹線で北海道までゆくのだ。
最低限の仕事はできた。
仕事はやめにしちゃおう。
ぬげたを連れ出して畑をぐるっと見回る。
ぬげたは好きにそのへんの草を食べている。
トマトの芽かきをして、見るとぬげたはうちに入りたそうにスタンバイしている。
夕方お外に出てトイレをしたら晩ごはんだって知っているんだ。
ねこたちもおなかがすいたアピールをする。
四匹が四匹ともにゃんにゃか言って、でももうちょっとおそくなるまで我慢。
そうしなきゃ朝、とんでもない時間に起こされるからだ。
人間の晩ごはんのために冷蔵庫を開けてみると、食材はずいぶん少なかった。
ほんとうなら今日買い出しに行くべきだった。
夫は焦っているわたしを見て買い物に行こうと言い出すのをやめたんだろうか。
冷凍のサバを取り出して溶かしておく。
もうすこし片付ける作業がある。
お風呂を沸かしておく。
猫たちにごはんをやる。
いややっぱりもうちょいやっちゃおうかな、と思いかけてやっぱりやめよう、と思いかけてちょっと進めてはやっぱりやめた。
お風呂にはいってごはんをつくってたべよう。
サバは調味料につけておいてお風呂をすまし、洗濯機をまわす。
室内干しの我が家ではお洗濯は基本的に朝にするけど、明日は早いので時間がない。
10日間も留守を任せる夫に、すこしでも家事の負担が少ないといいかと洗濯をまわした。
お風呂をあがって缶ビールをあけ、サバに粉をまぶして油で揚げる。
残りもののえだまめをつまみながら、適当な野菜も切って油に放り込んであんかけにしてまとめる。
調理中、ぬげたはずっとニコニコしながらこっちを見ている。
なにかおいしいものがもらえると思うのだ。
白菜を一枚、小さく千切ってあげる。
ぬげたは夢中でしゃくしゃく食べる。
ひと玉だけ余っていた生の中華麺をゆでて、あんかけにからめて食べて、洗濯機のピー音を聞いたので、干しにいこう。
ああこの家から10日間も離れる。
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