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蜻蛉の蜃気楼

  • 執筆者の写真: すずめや
    すずめや
  • 2025年9月23日
  • 読了時間: 3分

太陽のひかりもずいぶん甘くなって気の早い落ち葉は黄色くなっている。

明日は我が家には珍しく来客があるので家じゅうに掃除機をかけてモップがけもした。

家がでかいとなかなか掃除は行き届かない。

換毛機の犬猫たちがいれば尚更。

仕事にばかりかまけている在宅ワーカーがいれば尚更。


窓を開けて風を通して、掃除機やモップでうるさくしている私がいて、台所では来客に張り切った夫がいて、野菜のブイヨンをとったり魚を炙ったりしている。

ひと段落して仕事に戻ると、目の前の大きな窓いちめんの野原に浮かんでいるのは無数の蜻蛉。

蜃気楼のように、景色を震わせるほどたくさん、ゆらゆらと浮いている。

ここに来るまで蜻蛉が美しい虫だとこんなに思ったことはなかったな、とふと思う。


かめきちが水槽の隙間から脱走してごとごといいながら家のなかをうろうろしている。

窓辺に突進するので太陽を浴びたいのかと思って大きな窓のそばに連れて行ってやったが、外に出ようとサッシのあたりでずうっとごとごといわせている。

それはガラスでじっさいには外には出れないんだからおとなしく日向で甲羅干しをするように言い含めたが、黙っているのはすこしの間で、そのうちにまたごとごとと外に出ようとがんばり始める。

かめきちは根性のあるかめなのだ。


肌寒くなってきて、モンティーヌはしまってあった大きな羽毛布団をみずから引きずり下ろして自分のために具合のいいベッドを作った。

猫たちはそれぞれくっついて眠ることが増えて、ぬげたの寝室にも毛布が敷かれた。

お風呂の給湯温度を何度上げるかのちいさな言い合いがあって、かぼちゃのスープが生クリームいりになった。

眠る時に窓を開けておくと寒くなったし、パジャマも長袖長ズボンになって、わたしは早くももこもこスリッパを履いている。

畑の夏野菜はみんなしおしおとして、雑草たちも勢いがなくなり、最後に小さな花を咲かせている。

せっかくさやができたのに膨らまないで終わる枝豆があって、あまりにもたくさんなるので採れないで終わるゴーヤがあって、いつまでもみどりいろのトマトがなっている。


ごはん担当の夫が今晩は仕事なので、晩ごはんに焼きうどんを作った。

加えたニンニクとゴーヤは畑で採れたもので、ひき肉はわたしが好きだからと夫が買ってきてくれたもので、夫の作っていた他の料理で余った野菜とブイヨンをいれて、仕上げに目玉焼きを載せる。

熱して煙を上げる鉄のフライパンに、たまごをふたつ、割り入れる。

ふたつの卵がうまく分けられるように気をつけて投下位置をはかっているときに、ああ、わたしたちふたりで暮らしているのだとふと思った。


あしたはお客さまが来る。

子供2人で暮らしているようなこの家に、人を招くのは不思議なかんじだ。

でかくて古くて動物がたくさんいて、お客さま用のおざぶも椅子も机もない。

人はこの家にきて何を思うだろうか。

楽しんでいただけるといいなと、思う。



 
 
 

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