めちゃくちゃな日
- すずめや

- 8 時間前
- 読了時間: 6分
大阪に来た。なんとか来た。
まず朝早く起きてぎりぎりになってたものを仕上げてスーツケースに詰め、バタバタと右往左往、夫に盛岡駅まで送ってもらい、仙台ゆきの高速バスに乗って一息ついて席に沈み込み本を読む。合間に搬入前にお茶に行こうと予定していた友人とやりとりをしていたら、メッセージの到着とは違う種類の振動を、スマホがした。
なんだ、と開いてみると飛行機の欠航。
全国的に晴れて穏やかな陽気なのに?
理由は機材整備のためだとのことだ。なにそれ!!
振り替え便があるというのを見てみたら関空着は夜9時半を過ぎている。搬入に間に合わない。とりあえず払い戻しをかけ友人にメッセージを送る。この会合はすでにわたし都合で一度リスケしているのでバカほど落ち込んだ。機材整備。機材整備ってなんなんだよ。
チャッピーに相談してみたところ、新幹線なら間に合う、大きい荷物があるならみどりの窓口に駆け込むのだ!とご助言を頂戴し、友人からもとにかく落ち着けとメッセージを貰い、仙台駅に到着して、とりあえず九兵衛理髪店へ行った。わたしのなかで九兵衛理髪店に行くのは出張前の儀式みたいになっていて、大丈夫大丈夫、たどり着くはず、と思い込むためでもあった。
髪切って落ち着いて、みどりの窓口を探していると牛タンチャーハンを出す中華店を見つけた。仙台、牛タン、チャーハン。これっきゃない。牛タン定食は最低でも3000円くらいだけど牛タンチャーハンは1300円くらいだった。思わぬ新幹線移動によりお金が飛ぶことがわかってしおしおしているところにこんないい話がころがりこんできた!
揚々と着席、いったんメニューを開き全てに目を通し、うむやはり牛タンチャーハン一択。
運ばれてきた牛タンチャーハンは、卵とネギのシンプルなチャーハンにちょびっとレタスともりもりの牛タンの切れ端が乗ったわんぱくスタイルであった。ひとくち食べ、完食が不可能であることを察知する。アラフォーの胃には厳しい。旨い。旨いが厳しい。こうやって世界はちょっとずつつまんなくなっていくんだ。
半分ほどでギブアップ。半分ほど!なんて弱い。
夏場だから衛生上断られるかもと思ったが店員さんは優しく、お持ち帰り用の容器をくれた。となりに座っている仙台マダムが話しかけてきて、牛タンは柔らかかったかな、おいしそうだけど多いんだねこの店は、などと談笑。なんかほけっと気が抜けてみどりの窓口へ。
みどりの窓口、待つ。長い。待つ。ちかごろは人員削減されているらしいみどりの窓口。なるほどこういうことね…。あいがっちゃ。
ようやく呼ばれて窓口のお姉さんに泣きつく、が新幹線を使えばぜんぜん余裕で到着するぜと教えてもらう。でかい荷物があるのですと言うと素晴らしいキーボードタッチでカタカタパン、荷物が載せやすくてかつ移動しやすい座席をご用意くださった。あまりにほっとしてすごいすごいと子供のようにお姉さんを褒め称えるとお姉さんも子供のように誇らしげな顔で笑った。
とってもらったチケットを大事にしまってとりあえずずんだシェイクをきめ、充電器を忘れてしまったのでヨドバシカメラへ行く。せっかくなのでいろんなものの充電ができるコードを買った。これを常にキャリーに入れておけばいいんだ。ヨドバシの店員さんもなんか優しくて、うろうろしてたらカゴを差し出してくだすった。パニックだったのでこういうことだけでなんかくる。
無事に新幹線の座席に落ち着くとおとなりの席の方の荷物からにゃあと鳴き声。猫をかかえて新幹線か。しばらくすると腹に収まった牛タンチャーハンが深い眠りに誘った。せっかく猫ちゃんが隣にいるのに。
目覚めると上野、まもなく東京、生涯使うことはないだろうと思っていた東北新幹線と東海道新幹線の乗り換え口へ。新幹線のチケットを改札に入れるなんていつぶりだろう。
京極夏彦、嗤う伊右衛門を開く。四谷怪談は先日ノートにしたところ、むかつくあの物語が京極節によって救われてゆく爽快さ。いや陰鬱な話ではあるのだけど。京極先生のフェミニズムはいつも女の強さを尊重してくれるので四谷怪談で感じたお岩が家畜同然に扱われるやりきれなさが見事に救われていて嬉しくなる。
大阪に到着。大阪に到着したと思ったらそこは新大阪駅であった。あれここ梅田じゃなくね。ちょっと悲しくなったけど持っていたチケットで大阪までいけるのだという。大阪駅の改札を出て迷子となる。阪急はどこだよ。くたびれ果てて、阪急そばの、いつものあの大好きな純喫茶にいこうと自分を奮い立たせ歩く。搬入までしばらくそこで茶をしばこう。宿に移動するちからはなかった。永遠に重たいでかいキャリーを引いている。もう嫌である。ほとほと疲れた。
ようやく辿り着いたいつもの純喫茶にはデカデカと禁煙の張り紙があった。
なんというモノスゴイ悲しみであろう。あの飴色の店でマッ黒いアイス珈琲を啜りながら煙草をふかしたかった。悲しみに暮れまたも重たい荷物を引きずり新梅田食堂街を彷徨う。開いていたもうひとつの喫茶店は満員であった。入店をすげなく断られまたもしょんぼりとする。
一軒のバーを見つけ滑り込み、これから搬入だからしょうがなくシャンディガフとした。ビールとジンジャーエールが半々ならばアルコールではなかろう。ようやく人心地ついて呑んだ煙草の美味かったこと!
嗤う伊右衛門の続きを開くと本好きの店員さんとお客さんが話しかけてくれて本談義に花が咲き人間を取り戻す。もう一杯、炭酸水を頼んで嗤う伊右衛門を読み終え搬入へ。
人間に戻っていたので入店申請をしくじったことも乗り越えて仲間のいる売り場へ滑り込みぺちゃぺちゃおしゃべりしながら荷物を解き作ってきた本を並べて絵画を飾り染め布を吊るす。なんとかなったぞ!
一足お先に準備を終えて宿に行くべく電車に乗り、近くのスーパーで買い出しをして宿へ。
今回の宿は激安なのに一棟貸しというふしぎな宿で、正直不安だった。なんかやばい治安の街だったらどうしよう。ぼろぼろの汚いとこかもしれない。緊張しながら鍵を開けると広々とした玄関にはポプリがあり、なかは美しくリノベーションされた一軒家。一階と二階にあわせてよっつのベッドがあって洗濯機も使いたい放題、でっかいソファにでっかいテレビ、トイレシャワー別、キッチンに食器類に冷蔵庫には冷凍室もついていてエアコン完備、清潔なリネン類はたくさん置いてあって、とどめに近所の銭湯は無料で銭湯用のおでかけバッグまでシャンプー類完備でセットされていた。
こんなめちゃくちゃな日にこんなご褒美が待っているものだろうか。人生はわからない。
汗だくのべたべたの服を脱ぎシャワーを浴びてでかいソファに寝転がる。スーパーで買ったビールを開けて牛タンチャーハンを食べ終える。なんて長い一日だったろう。この一日の締めくくりがこんなに快適な場所に辿り着くことだったなんて朝のわたしは思いもよらなかった。がんばってがんばって、ほんとうによかった。



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