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  • 執筆者の写真すずめや

白兎都へ

大都会東京、丸の内の大型書店ですごして四日め。

一週間のおりかえし。


今日はおわりがけに一匹の白兎がやってきた。

東北の地から東京にやってきて、次の月曜からこの地で新社会人なのだといって、ずいぶん緊張していて、心の震えが目に見えるようだった。

なんだかここは時間がゆっくり流れている、と感じて、うちのブースの前まで吸い寄せられるようにやってきてくれたのだそうだ。

ノートが美しいと言ってたいそう感動してくれて、葉っぱを写しとった装丁をじっと見つめて、東北の話をして、2冊、ノートを選んでくれた。

吸い寄せられてきたときは、ずいぶん硬い表情だったのが、少し緩んで頰に赤みがさしたようだった。


東北の兎は雪の間は白くてふかふかしており、はだかだった樹々が萌え、山が緑色になるころには地面のいろになってからだつきもすっとする。

わたしは白兎をまだ見ないけれど、夏の兎は間近で見た。

しなやかな筋肉が伸びているのが毛皮の上からでもよくわかる、うつくしいけものであった。

どんな野生動物もそうだけれど、実際に見るとみな、けもの、というかんじがする。

その次に美しいがきて、その次にかわいいとかまぬけとか怖いとかの感想がくる。


白兎はまもなく四肢の伸びやかなけものになって、どこへでも地面を蹴って飛びはねてゆく。

雪の中で縮こまっていたことは過去になる。

どこでもよいところに跳ねていけますように、

いいことがたくさん起こりますように、

地面は蹴っても蹴っても蹴りきれないほど広い。


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