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新しい足

  • 執筆者の写真: すずめや
    すずめや
  • 12 分前
  • 読了時間: 4分

神戸のイベントはなんだかものすごかった。

こういう言い方は良くないと思いつつ素直に言ってしまうと作家さんたちのレベルがすげ〜高かった。

全員隙なくおしゃれで洗練されており、なんだこの会場は!と気圧され思わずおのぼりテンションになってしまった。

なのに関西人の気質からか、みなさん朗らかで人懐こく話してくださり、ずっとしつこく憧れていた町中華に四人も連れ立ってゆくことができた。


その町中華はいつかの神戸出展の際に宿の近くにあったおじいさんとおばあさんの営む中華料理屋で、昔ながらの日本人が営む町中華個人的鉄板メニューのオムライスがあった。

そのときはどうしても時間の都合が合わず(ご老体が営んでおられるので閉店時間が早めだったのだ)、泣く泣く諦めたが、今回もまた同じ宿をとることで次こそあの中華屋さんに行くぞと意気込んでいた。

前日の晩からインターネットに転がっているメニュー表の写真をとっくりと眺め、朝から何を頼むかしつこく組み合わせを考えていたが、四人で行くことができたのであれもこれもと頼むことができて夢が叶った。

神戸の餃子は味噌で食べるというのは一度経験したのだけれど、ここの餃子は甘味噌、東海でいうところのつけてみそかけてみそ的な味噌につけて食べるのであった。

神戸に住んでいたことのある作家さん曰くこの味噌を酢で伸ばすという手もあるのだそうで、真似してやってみるとなるほど餃子との馴染みが一段良くなって美味しい。

はちきれんばかりに食べた。


二日間のイベントはあっという間。

搬出の荷造りを終えたが会場から元払いで次の出展先に荷物を送らねばならないのでヤマト運輸の到着を待つ。

たいていのイベントでは荷造りは着払いで伝票を各々用意し、指定された会場内の集荷場所に運んでそのまま帰宅して良いことになっている。

わたしは次の出展場所が馴染みのない百貨店だったのでどうしても元払いにせねばならず、ヤマトさんの集荷のタイミングで声をかけることにした。

暇こいて会場の片付けを手伝ったりしていたら、作家仲間がおしゃべりをしてくれて時間潰しに付き合ってくれた。

送料の支払いを済ませ仲良く帰路につき、わたしはひとりみなと別れて手を振った。

今回は夜行バスで仙台まで帰るのだ。


この冬、飛行機の花巻神戸便がなくなってから関西がずいぶん遠くなり、ものは試しとお客さまに聞いた神戸仙台夜行バス13時間の旅に挑戦してみることにしたのだ。

宿代も飛行機代も一回ぶん浮くし、次の日の飛行機よりも早く帰れるし、尻の治安さえ守られるのであればかなり良き選択肢となる。

ただし仕事終わりのアラフォーという現実はここにあって、若者ばかりのバスに戦々恐々と乗り込んだ。


三宮から出発するバスに乗り込んだのはわたしを含めてたったの三人だったが、その先大阪京都で幾人かの乗客を拾ってバスは行く。

かなりの大型バスだったが、結局乗客は10人強といったところだろうか。20人は乗っていなかったと思う。

出発前にうっかり工場の地ビール、しかもタップから出てくるというお店に寄ってしまったので途中足が浮腫みブーツに収まらないくらいだったが、なんというか、けっこうすんなり仙台に着いてしまった。

もちろん爆睡とまではいかないが、微睡のなかでも13時間もあるのでけっこう寝たんだと思う。

夜行バスにびびって買ったクッションとネックピローも役割を果たしてくれたのだろう。

バスは想定の8分早く到着し、思っていたのより一本早い新幹線に飛び乗ることができた。

飛び乗る体力は充分にあったのだ。

その日中にどうしても出さなければならない荷物があったので急いだけれど、正直この感じなら仙台盛岡間の長距離バスにも乗れるなと思った。


迎えにきてくれた夫と、せっかく遠くまで来たのでと盛岡のイオンに寄り道をし、なかなか雫石では買えない細々とした食料品やお酒などをどかんと買い(神戸での売り上げを握りしめていたから。ありがとうございました)、夫の要望で久しぶりのマクドナルドをぱくつきながら帰るという余裕ぶりであった。

帰るとパソコンの立ち上がりが妙に遅く、焦ったタイミングもあったけれど、無事になにもかも発送することができて、風呂に浸かり、薪を運び、冬に向けて窓にビニールを張るという仕事までしている。


余裕だ。

余裕がある。

13時間も夜行バスに乗ったのに。


体力があるほうでは決してない。

だいたい基本的に家でずっと作業してる仕事なんだから体力なんかつくわけがない。

だが余裕である。

おそらくわたしは長距離タイプなのだろう。

短距離のがんばりには体力が持たないが、ずっとなにかをこなし続けるということには向くのだろう。

いい歳こいて夜行バスなんて…と思っていた気持ちが払拭されてしまった。

わたしは新しい足を手に入れたのだ。


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