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九時間屋

執筆者の写真: すずめや
すずめや
5月24日
読了時間: 3分

東京丸の内丸善。

十二時間の営業時間、店頭に立ち続けるわたしの拠り所はここしばらく妹と姪のうちであったが今回は途中からカプセルホテルに宿泊するのだ。

生まれた時から東京あたりに住んでいる友人に路線の説明を受け、Google先生も頼りにし初めての路線で水道橋にやってきたのだ。

オレンジ色の電車に乗るということであったがいざ改札を通るとオレンジ色の電車は三本あって、ほんとに東京ってわけわからん。チャッピーによるとそのオレンジ色はよく見ると明るいのとか暗いのとかで実は色分けがなされているらしい。初見殺しとはまさにこのこと。


カプセルホテル九時間屋はまじでこの隙間にあるの?というくらいの隙間に屹立するちいちゃな宿に見えた。それが中に入るとおしゃれに洗練されている上にスタッフさんも朗らかであり、全ての動線が美しく整えられており、こりゃあすげえところに来ちまったぞという感。

寝るためだけのカプセルが蜂の巣のように並んでおり、水と本とスマホだけを巣に持ち込んで貴重品やその他の荷物はすべてロッカーへ。

シャワーは常々憧れている頭から大量のお湯が落ちてくるタイプで、ボディソープの類もやたらといい匂いのするやつで、共用ラウンジは鏡張りで夜景が観え、なんか三角形のかっこいいでかい机がうまいこと配置されており、建築系のデザイン学生だったころ、みんながこぞって描いていた夢のデザイン画を彷彿とさせた。


シャワーを浴び、清潔な寝巻きに着替え、巣には鍵がかからないのでほとんどの荷物をロッカーにぶちこみ、ほんとうに寝るだけの部屋。それがやたらと眠れたのだ。もうぐっすりすやすやであった。

眠りすぎて朝はぎりぎりに起き、とりあえずシャワーを浴びて、身支度を整えにずらりと並んだ洗面台に立つ。女性専用フロアだったので、さまざまな年代の女性がそれぞれに鏡に向かい、それぞれのお化粧ポーチやコテやスキンケアグッズを隣の人の邪魔にならないよう楚々と広げつつ、身支度を整えてゆく。

ずらりと並んだみんなが、知らない誰かが、何を塗っているのかわからない程度のささやかな変化を次々と取り出してゆくスティックやコンパクトやケースを駆使して何層も重ねてゆき艶々の肌を作り、上を向くまつげを作り、ぷるんと毛先の揺れるさらさらの髪を作り、上品に光るまぶたを作り、とれたてのさくらんぼのような唇を作る。

なんて果てしもない女の朝。

こんなことを毎日続けて、続け続けてゆくひとが、美しくならないわけがないのだ。お化粧というのは素敵なことだ。素敵なものだ。素敵な積み重ねである。

夜は夜で、みんな思い思いにいろいろなスキンケアを塗り込んだりはたいたり貼り付けたりパッティングをしたりして、丹念に長い髪を乾かして、いい匂いのオイルをすり込んだりしていた。

なんて果てしもない女の夜。

世界の見えないとこには途方もなき美しい時間がずーっとずーっと積み重なり続けているのだ。






 
 
 

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