福岡出展みっかめ。
会場である博多阪急からはすこし離れた場所に宿をとった。
とはいえ大都会博多、駅からすこし離れたくらいでは賑やかさがなくなることはないようだ。
近くに市場があって、そのそばに我々古くからここにありますという佇まいの純喫茶をみかけてこのたび突入を果たした。
サイフォン式の珈琲を目の前でたててくれる、老夫婦のお店。
マスターは正装、おかみさんはエプロン、つやつやのカウンターに、磨かれてはいるが茶色くなってきた置き物たち。
古い店の装飾にこうも心躍るのはなぜだろう。
写真より食品サンプル、手書きのメニュー看板、木彫りの装飾のある縁。
実用性とか特にないです、いいと思ったのでそうしました、という態度が好きだ。
もしかしたらこれはギャルが好きという気持ちにも通じるものがあるかもしれない。
トーストサラダと珈琲のセットを注文した。
目の前で自分の珈琲豆が踊るようすが楽しい。
喫茶店ならではの分厚いトーストに、思いのほかたっぷりとサラダが添えられて登場した。
そして珈琲にはゆるく立てられた生クリームが添えられた。
小さなパフェでも作れそうなうつわに氷が入っていて、その上にこれまた小さなガラスのボウルが乗って、ボウルの中に生クリームと小さな銀の匙。
ふだんはクリームもお砂糖も使わないがこれには心惹かれて、ひとくちそのままでいただいたのちクリームをすくってのせてみた。
ゆるめに立ち上がっていたクリームが珈琲の熱でとたんに腰が抜けて黒々とした表面を覆い隠してゆく。
珈琲とクリームがまざりきらないうちの一口が好き。
カレーも混ぜて食べるより乗せて食べる方が好き。
ちらし寿司より握り寿司。
伝票が目の前に置かれたが、なんとオレンジのカボチャを被った黄色いひよこが伝票押さえの任務についている。
いったいこれは、と周りを盗み見ると白地に金の星の散ったカボチャやシンプルに真っ白のお洒落なカボチャ、とにかくカボチャが各々の伝票を抑えている。
先にカウンターに座っていた常連らしき方が口をひらいた。
「えっなにこれ、どこで買ってきた?ていうか何?」
おかみさん、
「マスターがこういうの買ってくるのよ、にんにくだと思った!」
そこで思わず笑ってしまって、するとマスターがすごくいい笑顔で
「カボチャだよ!ハロウィンだもん!」
となぜかこちらを向いて、ねっ、わかるよねっ、という態度。
そうですねえー!と強めに同意。
おかみさんと常連さんはこういうのほんとどこで買うんだか、にんにくだとしたらこれは青森のいいにんにくのサイズだ、と話し合っている。
ニヤニヤが抑えきれずにいるとマスターがこっちに向かって、
「出窓あるでしょ、あの道に面してるところ、あそこにね、うさぎの親子とフクロウが新しく入ったから!見ていって!」
「この人はどっかからかそういうの買ってきては無理やりお客さんに見せるんだよ」
とはおかみさんの談。
店内写真はあまり歓迎されないようだったが、そういうことなら出窓の写真を記念に撮ってもいいかと尋ねるとマスターはとても嬉しそうに了承してくれた。
おかみさんたちは100均で買ってくるんでしょ、たぶん、と言っておられたがおそらくこの置き物たちはもっといいところで買っていると思う。
少なくとも雑貨屋さんか、インテリアショップには赴いているはずだ。
置き物について話すときの、マスターの笑顔が忘れられない。

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