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お誕生日会をやってみよう

  • 執筆者の写真: すずめや
    すずめや
  • 17 時間前
  • 読了時間: 3分

それを言ってくれたのは、

すずらんというよりも、塔の上で高く鳴る鐘のような女性だった。


ふたまわりも年上の旦那さまと駆け落ち同然で結婚し、ぞっとするような苦労をされてきた。

お子さまが3人いらして、小鳥も飼っていて、

お料理も好きで畑もやるというので自然と家族の話が多くなった。

そのうち家族の写真を見せ合う段になって、見せてくれたのがアメリカのホームドラマのような、でっかいバルーンでハッピーバースデーと飾ったお誕生日会の写真だった。


手作りのきれいなケーキにテーブルデコレーション、主役の好物で飾りつけられた食卓。

クリスマスにももちろん立派なツリーを飾って家族みんなでプレゼント回しなどをするんだそうで、わたしは正直ぶったまげた。

そんな絵に描いたようなパーティーをする家族なんてこの世にいるのか。

そんなにも仲良しな家庭というものがあるものか。

お子さまがちいさなうちならまだわかる気がするが、そこのうちのお子さまはみな成人している。

旦那さまはリタイア済みで、奥さまである彼女がひとりで作家業で家族を支えている。

そんな大変な状況でそんな仲良し家庭があるものなのか。

自営業の親というのはいつもきりきりしていて放任主義なのではないのか。

否であった。


しきりに感激していたら、鐘の彼女が言った。

"やってみればいいじゃない?"

りんごんと鐘は鳴る。


我々夫婦の誕生日はお互いに3日しか離れていなくて、両日ともわたしが出張でいないせいで祝えない。

なのでふたりの誕生日を足した数字の日にお誕生日会をするぞということにした。


なにはなくともバルーンであろう。

ハッピーバースデーのあれが必要だ。

聞いた通り、通販サイトでたったの1000円で売っていた。

お星さまが行列してLEDでひかるヒモみたいなやつもすごい安さで売っていた。

一緒にぬげたの正装も用意する。

スマホの画面をタップしただけであのパーティーのやつがみんな手に入ってしまった。

こんな簡単に手に入るものだなんて。


夫はパティシエの仕事をしていた経験をフルに活かしてなんかすごいケーキらしいケーキを作ってくれた。

加えて我が家のシェフである(と自称するようになった)のでお料理もぜんぶしてくれた。

3色のキウイにクリームチーズとはちみつとなんかハーブを練ってとろとろにしたのを添えたおいしいやつとローストビーフ。

プレゼント交換とかはしなかった、それは事前にふわっと済ませてしまっていた。

そのへんはパーティー初心者なのでしょうがないとする。


大人でも誕生日会をやっていいのだ。

なんかずるずるしたかんじのお誕生日会だったけれどとにかくやった。

子どもの頃に思い出がなくても、大人になってからも人生は続くしむしろそのほうが長いのだから、やってみたっていいのだった。

大人はしんどい、だからお酒を呑んでいいってことになってるんだよ、と言ったのは世界を救った少女の母親だった。

ジュースもお酒も呑んでよくてケーキも食べてもいいのだ。

鐘の彼女が笑っている。

我々はお誕生日会をするような家族となった。



 
 
 

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