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  • 執筆者の写真すずめや

風薫る

数年に一度の長雨だ、と地元の人びとが口々に語る雨の日々がどうも明けたようです。

山の大雨はほんとうに気持ちよくざぶざぶ降る。

京都にいたころは少しの雨で蒸し蒸して憂鬱な気分になり、でも頑張って自分のご機嫌を鼓舞しておりましたけれども、こっちの雨は頑張って鼓舞せんでも美しいし気持ちがよいの。

雨や風というのはだれのものでもない、アノニマスなものですけれども、ひとたび意識でそれを捉えれば極個人的なものに変わる。

京都の雨、路地の雨、うちの窓から見える雨、鴨川の雨、舗装道路の雨、山の雨、雫石の雨、煙を産む雨、滝のような雨、シャワーのような雨、さみしい雨、嬉しい雨、甘い雨。


風薫る、というのは比喩のようなものだと思っていました、というかそう思っていたことがわかったんですけど、風は、ほんとうに、薫る。

香りというのでは足りない、芳醇なみどりの、木々の、草の薫りをたっぷりまとって、夏の重たい風が吹く。

雨が明けたので、今日は机に面した大きな窓を開け放って作業していたのです。

吹き込む風の美味しいこと。

ご馳走、というかんじでありました。

また目の前は何も育てていない、平たい青草の畑でして、その脇には道路が一本伸びていて、郵便局の赤いバイクなんかが青草野原をプーン、とゆくのです。

こっちのひとたちは基本的に乗り物の速度が速いので、ノッコノッコとのんびりと言うよりも、蜂の飛ぶような速度でゆきます。


窓を開けているとアブがたくさんきます。

はじめはスズメバチだ!と大騒ぎしていた、スズメバチそっくりのデカデカアブもいるし、ハエよりちいさいけどがっつり噛みついてくるチビチビアブもいます。

地元のみなさまはアブにたかられてもみじろぎもしません。なんでだ。

うちの山にはヒルもおり、恐ろしい吸血鬼に囲まれていることになります。

たぶんそれで、オレンジ色のユリがそこらじゅうに生えているみたい。

本萱草(ホンカンゾウ)というそのユリは、根っこに止血の効果があるらしいのです。


作業場にはやたらとカマドウマがやってきて、どうも愛猫は見てない隙にカマドウマをいたぶっているようで足がそこいらに落ちています。

パートナーは愛猫がカマドウマを食べているところを見たと主張しますがわたしは断じて現場を見ないつもりです。

あんなに可愛い猫ちゃんは虫なんか食べないので。

パートナーの連れてきた亀のかめきちは最近挨拶すると首を伸ばしてくれるようになりました。

亀はなつかないと主張していたパートナーは、わたしに挨拶をするようになったかめきちを見てくちびるを尖らせておりました。

マムシも見たし、アオダイショウもみたし、カラスアゲハという世にも美しい蝶もいました。

ホタルも昼夜問わずふよふよ飛んでおり、大きいトンボの羽化もみた。

セミの幼虫が地面からよっこら出てきて葉っぱによじ登るのも見ました。


豊かで豊かで、美しい。


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