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  • 執筆者の写真すずめや

逃亡者の衝撃

このところ曇りつづきだった。

しかしきょう、朝は久しぶりに柔らかな雪が降り、10時を過ぎると久しぶりにぽっかり晴れて、猫も寝転ぶうららかなお昼まえ、作業に没頭していると急にぱん、と高い音がした。

何が起きたかすぐにはわからず、逃げていく猫たちを振り返り見て、改めて正面を見ると障子になにかが刺さって破れていた。

ガラスの破片だ。

猫らが戻ってこないように作業場のふすまを閉め、障子を開けると窓ガラスが粉砕して大きな穴が空いていた。

なにかがぶつかった?

足もとはふかふかの室内ばきだったので近寄ってそろりと外を見ると、にわとりほどの大きさの鳥が首をぐにゃりと曲げてぐったりしている。

夫を大声で呼ぶ。

しかしやつはのそのそと来る。

何度呼んでも来てくれないこともある。

おそらく暮らし始めのころ夕焼けが綺麗だとか猫の寝相が変だとかで呼びつけたのにうんざりしたのだと思うがこういう緊急のときでものそのそしているのはかなり悲しいことだ。

一番反応良くとんで来てくれたのは、4月1日エイプリル・フール、嘘をついてやろうと窓の外を見てオニヤンマだ!とでかい声をあげたらとるものもとりあえず駆けつけてきた。

もちろん4月にオニヤンマなんかいない。

彼は虫が好きなのでそれを突いた嘘であった。


手袋をして外に出て、ぐったりした鳥を持ち上げたらもう息はなかった。

首が折れてしまっているみたいだった。

鼓動もなく、あたまのあたりのどこかから血が出ていた。

障子越しに割れたというのにかなりの広範囲にガラスが散らばっており、ふたりがかりで片付ける。

夫がでっかい段ボールで窓をとりあえず塞いでくれた。

明日は祝日だからガラス屋さんに連絡がとれるのはきっと明後日、集落の大工のお爺さんとこにガラス屋さんを教えてもらうか?こんなでっかい窓ガラスはいくらくらいするのだろうか?ともんもん考えながら外で雪かきをしていたら、家の中にいて片付けをしていた夫がやってきて、この鳥は山鳥(やまどり)と言って、ジビエの中でも相当に珍しく美味な鳥らしいと食べた人のレビューブログをみせてきた。

そのブログ記事は狩猟経験のないとある家族が、軒先に隼に襲われて軒先に落ちて絶命してしまった山鳥を調理してゆく過程の紹介で、いままさにわたしの目の前で突撃死をしたあの鳥とおなじ鳥を、羽をむしるところから食事になるまで克明に画像付きで、しかし朗らかに書き綴ったブログ記事だった。

彼らのもとに山鳥が落ちてきたときはクリスマスだったそうで、お祝いテンションもあったのかもしれない。


しかし、そんな、そもそも野鳥って、鳥インフルエンザとか、なんかやばいことがあるんでないのか。

羽をむしるって、お湯につけるとか聞いたことあるけどそんな大きな鍋もないし、てゆうか鳥が気の毒ではないか。

きっとガラスに反射した空をみて突っ込んできてしまった不幸な鳥なんだから土にでも埋めて供養してやるのがいいのではないのか。


はじめはそのように考えていたが、目を爛々として興奮している夫と、あのブログ記事の家族のテンションを思い起こしていたら、山鳥がいかに旨い肉かと主張する数々のネットレビューをみていたら、食べることも供養だという夫の主張にその気になってしまった。

昔バイトしていたスーパーで、精肉の部門にいたときに、丸どりの捌き方は教わっていた。

できる。


しっかりと抑えて、山鳥のいちばん美しい長い尾羽を引き抜いてみた。

すこしの力で、思ったよりもあっさり抜けた。

他の羽もひっぱってみる。

抜けた。

まだあたたかさの残る鳥からぶちぶち羽をむしる。

むしる、という表現がぴったりだった。


お昼ごはんを食べてから、ふたりがかりではねむしりにかかった。

これはなかなか果てしない作業で、わたしはもう途中で離席してしまった。

こういう果てしない作業と掃除は夫の方がずっと向いているし彼自身も作業が好きなようだ。

みずから自分だけで残りはやろうかと言ってくれたのでしめしめと離席し猫たちと作業場に戻った。


しばらくすると夫がやってきて鳥を捌いてもらわなきゃと言った。

見ると綺麗に洗われ、中途半端に体を開かれた、もうお肉になった山鳥が台所にいた。

YouTubeなどを参考にしてみたがうまく鳥を捌く解説を見つけられなかったのだという。

進捗を報告せず、ひっそり捌ききって、さすが!と褒めてもらうのを期待していたのだろうな、というのがありありとわかる惨状であった。

ちょっと難しいかもよ、とぼそぼそ言いながら後ろでこちらの様子を伺うのでさっさと捌いてみせると無言になってしまった。

手際が見事だと思ったでしょうと、さすがと思ったでしょうと、彼が本当ならかけてもらいたかったろう言葉を先回りして、そう言ってくれないかとからかい投げるが、ふざけた表情でごまかすばかりだった。


ねぎとしょうがと鳥ガラとお水を火にかけ、沸騰したところで薪ストーブの上にうつす。

これでほっておいてもとろ火で長時間炊いた鶏がらスープがとれることになる。

犬のぬげたの散歩ついでに夫が集落のおじいさんに聞いてみてくれた話では、ここいらには鷹がいて、山鳥が鷹から必死で逃げるのによくなにかにぶつかってしまうのだという。

おじいさんちではシャッターにぶつかってしまった山鳥がいて、その山鳥は硬い金属製のシャッターを壊して、自らの嘴も粉砕して息絶えていたそうだ。

うちの割れたガラスは木立の奥にあるので、きっと普通に飛んでいて勘違いで突っ込んだのでなく、鷹に追われていて猛スピードで飛んでいて、ちゃんと前を見ていなかったのだろうということだった。

確かに風もなく穏やかな時間だったのにこんな勢いで突進してきたのはなんでだろうと思ったが、そういうことなら合点がいった。

山鳥はどちらにせよ食べられる運命の上にあったのだ。


実は初詣で集落の神様と氏神さまのとこにいったとき、今年も家族みんながお腹いっぱいで病気も怪我もなく元気に過ごせますようになどとお参りをしたのだ。

まさか窓ガラスが割れる惨事になるとは思わなかったが、なんだか、なんか、そうなのかな。


…今夜の晩ご飯が楽しみである。



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