髪を切るのはここ何年もQBハウス。
駅とか大きめのショッピングモールとかにひっそり、でもどこにでもだいたいあるいわゆる1000円カットのチェーン店(このご時世で1350円になった)。
シャンプーもブローもなく、指名も予約もなく、さっといってさっと切ってさっと帰る。
切ったあとは掃除機の首だけのぐねぐね動くやつで頭の毛を吸ってくれる。
だいたいどこの駅にもあるので、出張前には立ち寄って頭をさっぱりさせてから搬入というのがお決まりだ。
あんましおしゃれに興味ないな、というのもある。
色とりどり色んな服を着たり頭を染めたりはもう若いうちに一通りやったし落ち着いた。
大学生のとき、街頭でちいさな女性の美容師さんに声をかけられ、Zepp大阪のヘアショーのモデルをやったこともあった。
そのときは青紫とパーマが5種類くらいと刈り上げと金色と緑色となんかいろんな毛が頭にがてんこ盛りだった。
着飾る人を見るのは好き、インナーカラーが流行ったのはすごく楽しかった。
お洋服も装身具も好きだ。
でもそれはたぶん作品を観ている目で好きなのであり、身につける喜びは知っているつもりだけど、どうしてもモノを観る目になってしまっていざ自分が着たいかつけたいかというといまはべつに…となる。
作家さんの装身具は欲しくて眺めたく、身につけることで彼らの美意識に守られているようでそれは買う。
ということでもうしばらく服は黒一色。
同じ色ならだいたいどれを着ても決まるし外食の際わたしはよく食べ物をこぼすので汚れの目立たず、ぴりっとした印象の黒がいちばんよい。
それであたまはQBハウス。
髪型も上が伸びたり短くなったりするけどツーブロックであんまりかわらない。
手をかけずある程度きちんとして見える、おしゃれとはこれくらいの距離感が心地よい。
いろんなQBにいった。
オーダーはだいたい決まっていて、中の短いところを3ミリのバリカンで刈って、後ろの長いところを少しすいて、全体的に整えてください。
一番よく利用するのは東京駅構内。
目まぐるしく人が出入りする、いちばん混んでる。
おそらく捌いている人数がよそとは段違いであるから腕が良い〜とよく思う。
しかし忙しいのでリクエストははっきり何度か伝えないと実は伝わってなかったりするので気をつける。
いちど丸の内丸善に出張しているときの昼休みに立ち寄って、肩より下の髪を耳たぶより上にばっさり切った。
丸善の店員さんはさっきと髪型が変わったのに混乱したようで、まあ基本的におしゃべりするお店じゃないんだけど、その日の午後は誰にも話しかけられなかった。
神戸三宮、
商店街の理髪店か?という雰囲気。
のんびりしているけどおしゃべりなおばさまとおじさまがいる。
前にここでおばさまにインナーカラーをしたら似合うと言われてQBでは毛染めをしてないのに何をいうのかと不思議に思った。
それから自分の腕に絶対の自信を持っているおじさまがおり、店内がゆったりしている際には時間はあるかと確認したのちかなり丁寧に切ってくれてうん可愛くなった、さすが俺、などという。
気心知れた親戚の家ってこんなんかな、と思う。
愛知金山、
ここで日本一おしゃべりな店員さんにあたった。
岩手といえば大谷さんですよね、野球に興味ありますか?と聞かれ、わたしが興味ないんですって答えたあとも永遠に大谷さんのすごいところを専門用語を織り込んで話すのでわたしは相槌マシーンになった。
QBは基本的におしゃべりしない人のほうが多いが、ここの人は別格で、おしゃべりに夢中になって後ろをすいてくれといったのを忘れてしまった。
高校まで愛知に住んでたから、なんだか懐かしくなった。高校のやんちゃな運動部の子たちは、いつもこんなふうな喋り方をしてた。
神奈川川崎、
きゅるきゅるの瞳のつるつるのぷりぷりのパーマを当てた女性の店員さんにあたった。
ほわわ!となった。
すごく丁寧に刈り上げもカットもしてくれた。
そのときの仕事はラゾーナ川崎というおしゃれショッピングモールだったので、さすがおしゃれショッピングモールはちがうな、と思った。
いかがでしょう?と仕上がりを見せる鏡のそばできらきら瞳を輝かせて微笑んでくれた。
名古屋駅、
かなり奥まったところにありコロコロを引いてたのに迷った。
名古屋駅はちょっと外れるとエスカレーターが極端に少ない気がする。
寡黙なおばさまに当たり、粛々と、じっくり切ってくれた。途中で不安になったほどだ。
QBで丁寧に切られると1350円しか払ってないのになんだかすみませんと思ってしまう。
腰をかがめ、眼鏡の奥の目は真剣そのもの。
きち…きち…と切ってゆく、こちらも息が詰まるほど、と思ったら急に放屁をされた。
しかし何事もなかったかのようにきち…きち…と切り続けるので笑いを堪えるのが本当に大変だった。
上野駅、
穏やかな中年くらいの男性にあたった。
やたらと肌艶がよく、清潔感があり、彼の印象そのままの仕上がり。
ここにくせがありますから多めにすいておきますね、ということをしてくれた。
QBは基本的に言われたことをする、という姿勢だけれどたまにこうやってアドバイスをしてくれる人がいて、そのたびに少しずつそうか、ここにくせがあるのか、と自分の髪に対する知識を蓄えていく。
仙台駅、
黒々とした髪の、昭和の男前、というかんじの男性に当たった。
東北の方らしい寡黙さと、さりげない気遣いと少しの質問があり、仕上がりにスタイリングのようなことまでしてくれた。
いつもQBにいくときにはヘアオイルだけて軽く仕上げて行くのだけど今回は少しワックスもつけていたのだ。
さっぱりしたモダンな髪型に仕上げてくれた。
QBハウスは斯様にさまざまな個性がありとても助かるチェーン店だ。
労働組合のあれとか雇用形態のそれとか残業代問題とかが早く解決しますように、といつも祈ってから券売機でカット代を払う。
個性豊かなみなさんに、また会えますように。
「ナゼそこ?」見ましたよ。作品にも興味ありますが、それより何より。ご主人と、猫ちゃんとの生活、もっともっとどんな毎日なのか覗きたくなりました。