梅田の一週間が終わりました。
みなさま本当にありがとうございました。
さて梅田。
大都会梅田。
ある日の仕事終わりに、作家仲間みんなでごはんにいって、そのごはんのお店がホテルへの帰り道と違う場所にあったので、1人帰るのに迷子になったのです。
地上をスマホ片手にうろうろしていたら、紙のチラシがささっている看板に出会いました。
"ニューハーフショー、ジャックアンドベティ"。
チラシを握りしめてどきどきしながら帰った。
その次の日にみんなを誘ってでかけた。
ジャックアンドベティのことは、行ったその日に酔いと興奮にまかせてかなり長文を書いたのだけれど、それはすごくいい文章だったと思うのだけれど、なにせ酔っ払いだったので誤作動で全文を消してしまった。
悔しくてそれからもういちどが書けなかったけれど、今夜はお仕事も終えた夜だし、つまり大阪最後の夜だし、ご飯も食べて落ち着いたのだし、もういちどジャックアンドベティのことを書いてみよう。
チラシにはこうあった。
"ニューハーフショー、ジャックアンドベティ"
"女性に人気!"
"安ぅて、おもろぅて、キレイやで"
"ニューハーフのバラエティーショー"
"ショーの開演前には、当店のショーガールたちが、みなさまのお席にお邪魔させていただきますので、美の秘訣を探り出すもよし、本気で口説くのもよし、間近にニューハーフの息遣いを感じてみてください"
"今日も飲め飲め客の酒
口は弁護士
心は詐欺師でお送りいたします(笑)"
ショーの時間はきまっていて、お金も明朗に書いてあった。
飲み放題おつまみつきで90分5500円、女性グループは500円引き。
お姉様方にお酒をあげたいならそのつど一杯1000円。
ショーの時間の30分前に入店し、ショーが始まるまでの30分ほどの時間、ニューハーフのお姉さんが席についておしゃべりしたりお酒を作ってくれるのだ。
彼女らは時間になるとショーにでるため席を外す。
そしてめくるめく美の世界が展開される。
おなじくうめはんに出展中の作家仲間と行った。
女の子グループは500円引きというので女の子ばっかりで行った。
作家というのは基本的には家に引きこもって自身の内面世界と向き合うかひたすら埃や汗に塗れて作業をし続けている、隠か陽かでいえば完全な隠のくらし、または心根をしている人たちなので、みんなこういう、いわゆるお水の世界には慣れていなかったし偏見まみれであった。
そもそもニューハーフってゲイとは違うのか?
こういう場でお酒をあげないのは失礼なことだったりするのか?
お洒落してなかったらいじわる言われたりするのかな。
念の為イケメンをつれていくか?ご機嫌とりになるかな?
いじったりとかどれくらいされるのかな、するのかな、セーフラインがわからないよね。
女の人として接すればいいのかな?
聞きたいこと色々あるけど気分を悪くさせちゃやだよね。
予約とかっているんだろうか?とりあえずしてみようか?
まあいろんな心配は全て杞憂であった。
とりあえずわたしはその日の朝から大興奮で仲間たちにチラシを回覧し、すごいのを見つけたから行ってみよう!と全員を誘った。
朝ホテルをでるときに、もしかしたら今日みんなで行けるかもしれないと思ってチラシと一緒に口紅までかばんに入れて行った。
接客中はマスクを外さないのでしばらくご無沙汰だった口紅。
でもお姉様方に会えるなら、すこしでも気取っていきたいと思ってかばんにいれた。
誘いに乗ってくれた計4人でいざ、ショーへ。
仕事終わりの時間とショーの開始が少し離れていたので健康的に定食屋さんで晩ご飯をすませ、向かった。
ビルの入り口はてかてかの真っ赤な大きなタイルで彩られており、汗の匂いが染みついた小さなエレベーターで登って行った。
入り口につくと、金髪の細い綺麗な男性がスーツをきて出迎えてくださり、料金の説明をしながら流れるように席に案内してくれた。
そして、息つく間もなく、お姉さんがやってきた。
輝かんばかりの美女と、貫禄のある大きなイヤリングのお姉様。
座っただけで興奮は最高潮。
ふだん全く縁のない、アンダーグラウンドな文化の空気。
とりあえずお酒が強いわけじゃない人もみんな勧められてお酒を頼んだ。
いちいちそのたびお姉さんが"すみませぇん↑!!"って地声を出して笑いを誘う。
大阪は日本で1番おしゃべりな街だ、そしていちばんのエンタテイナーの集まる街だ。
みんな恐縮していたけれど笑いの力はすごい、すぐにゆるっと解いてもらって、いろんなお話をした。
手術の話、人生のいままで、苦労のあれこれ、これらは私たちが聞いたので話してくれたのだけれど、一つ前の席の酔っ払いサラリーマングループはふつうにお姉ちゃんと会話を楽しんでいるみたいなかんじでぜんぜん違う雰囲気だった。
ついてくれた美女は若干26歳。
すらっとして細身、肩の出るシンプルな白い素敵なドレスに身を纏い、茶色のストレートヘアは肩の上で切り揃えられ、ぴかぴかのお肌。
それとばちばちつけまつげの60代のお姉さま。
おっきな赤いイヤリング、濃いめの口紅、ショートヘアのウィッグでじろりと目配せ、飄々とした雰囲気。
はじめはみんなふたりの美しさに感嘆の嵐でお化粧とかどうしてるんですか、とかアクセサリーを作ってる子もいたので素敵なイヤリングですね、とかそういうことを聞いていたのだけど、我々のなかでは最年長の仲間が
"なにか聞いちゃいけないこととか、失礼なことってありますかね?"
というのを思い切って聞いてくれた。
そしたら美女はわざと顔を崩して大袈裟な身振りで、
"うーん、暗証番号とかぁ?マイナンバーカードの番号とかぁ?聞かれたら困っちゃうわよそもそも覚えてないし〜!アッハ!なんでも聞いてくれていいわよ〜!"
ぐわあまいった。
なんて運びだ。
いろんなことを聞かせてもらった。
ゲイとニューハーフとドラァグクイーンのちがい。
それぞれのスタンスで線引きがあって、一概に言えるものではないけれど、だいたいはこういう傾向があるものなのよ。
お姉さんはいつから"そう"なの?
うーんそれってあなたがいつから"女"なの?って聞かれてるのとおんなじ感じ。
すごく綺麗だけどお化粧品はどういうのつかうの?
基本はドンキホーテよ!昼間は寝てるからね!
デパコスなんて縁ないわ!
オカマっていう言葉を自称でお姉さんは使うけど、それって失礼な言葉かなと思ってたんだけど、気にならない?
わたしは全然気にならないし無理して使ってるわけでもないわ!人によると思うけど。わたしはわたしのことオカマっていう生き物だと思ってるの。
その、"とっちゃった"あとって、どうやって恋愛するの?
犬猫の去勢とおんなじかんじで、性欲というのが基本なくなるの。だから頭で(理性で)人を好きになるよ。もちろん求められれば応じるけど、それに振り回されることはなくなった。
あとふつうに寝るのが朝6時とかだから睡眠のほうが大事。寝たい寝たい寝たい。
ちなみにフルの手術には〇〇◯万円かかるよ。
オカマだって感じたからってショーを仕事にするだけが選択肢ではなかったんじゃない?なんでここにくることにしたの?
わたしは田舎の出身だったから、オカマをする=こういう店で働くことだったの。
ほかにやり方とか、なりかたを知らなかったの。
アタシオカマになる!って親元を離れたわ。
ふりかえるとかなりズケズケ聞いている。
しかし聞いてもよいよの雰囲気を作ってくださっていた。
質問攻めをしている最中はっと気づいて、お酒をどうぞとひとりが言ってみたら、えっいいのに、気を遣わないで〜なんて言ってくれて、それがほんとうにそういう気持ちからの言葉に聞こえて、またはわわとなった。
途中でウイスキーの水割りを頼んだら、さらのボトルと水と氷が運ばれてきて、お姉さんがわざわざ氷と水とお酒を掻き回して作ってくれた。
コンビニに売ってる角瓶のウイスキーが、妙に甘く美味しく感じた。
ステージは千本桜から始まってママのやしきたかじんの歌謡で締めるたいへんに面白いひとときだった。
美しい舞、お笑いお下劣芸、舞、お下劣、とサンドの構成ですすみ、うっとりさせては笑わせて、の緩急のある舞台で、1時間なんてあっという間だった。
さっきまで顔を突き合わせておしゃべりしていたお姉さん方がステージの上できらきらに舞い踊ったりへんな衣装で変な曲にのせて踊っているのをみるのは妙な興奮があった。
世界と異世界のはざまはなんて儚い一線だろう。
39年ママをやっているママがステージの締めをするのだけれど、純粋に歌がどえらい上手い。
そして合間のおしゃべりで大阪らしい客いじりもするのだけれど、いやじつはわたしは昨今のお笑いのいじり芸というのが悲しくてやるせなくてみていられないタチなのだけれど、ママのいじりは大丈夫だった。
さいごにはママが客席をぐるっと回ってみんなの手に触れてくれる。
慣れているひとたちはわりばしの割ってないのにお札を挟んでおひねり?としてママに渡していた。
それもだいたいが千円札で、バブル的な景気の良いかんじではなかったのだけれど、それがかえって我々には安心の種になった。
すごい経験をさしてもらってありがとう、お礼がしたいけどそんなにお金を持ってないよ。
そういうやつはこういうお店にきちゃいかんのかな。
なんていう最後のこびりつきも払拭してもらえた。
ママが言ってた、
男の人には遊ぶ場所はたくさんあるけど、女の人の安心して遊べる場所はとっても少ない。
クラブもホストも危ないところがあるし、お金もすごくかかるのやから、こうやって、安ぅて、おもろい店を女の人に提供したい。
安心して、またきてな!
ぐわあ。
すんごい体験だった。
実はわたしはお金のなかった美大生時代、夜中に働けるのと時給がいいのとでガールズバーとラウンジで働いていたことがある。
いやそういえば30代になってもたまたま知り合いの知り合いからスカウトされた昭和の匂い濃いスナック(お触りなし、ジーパン出勤OK、お給料は日払い)にいたこともある。
お水の世界は、あのころ、とっても近くにあった。
だけれどいまはそのころのことをすっかり忘れて、ずいぶん遠くから、他人事みたいにどきどきしながら、雑居ビルの三階にのぼって、ニューハーフショーをみた。
お姉様がたと喋った。
まるで異世界の人と話すように、身構えて。
ジャックアンドベティはいい場所だ。
情報の毒に侵されて、頭でっかちになっちゃってたのも、なんだか平たくなったようだ。
そうなんだね、そうだよね、そういうこともあるんだ〜。
いつもたったそれだけのことなんだよな。
またジャックアンドベティに行きたくて、それには大阪出張を増やすしかなかったのだけど、調整を試みたけれどやっぱり無理でまた来年になりそう。
また来れる日が楽しみだ。
またぜったい見にきたい。
わたしはまた来られるときまでに、わりばしにおひねりを挟めるように、ちゃんとお札をとっておかなきゃならない。

Comentários