東京へ
- すずめや
- 4月3日
- 読了時間: 3分
冬籠りを終えて東京にやってきた。
久しぶりに乗るこまちの車窓、この時期は枯れ木の冬から桜咲く春へと季節が変わってゆくのを眺めることができる。
少し前まではそれを楽しみにしていたのだけれど、もやもやと考えごとをしているうちに眠ってしまった。
新幹線に乗る前に買った暖かい缶のコーンスープが腹の底に落ちてぬくもりを全身に運んでゆくと簡単に意識が落ちた。
寂しかった頃の夢が浮かんでは消えまた浮かんだ。
無意識に奥歯を噛み締めて舌を挟み痛みに起きてまた落ちて、久しぶりにあの頃のことを感触を持って再現されて、じっとりと薄暗い気持ちをかかえて東京駅に降りるとじっとりと冷たい雨の降る薄暗い昼であった。
気温も思っていたよりずっと低い。
今回は仕入れのために早めの時間に東京に着いた。
目当ての画材店へ目当ての大判の紙を買いにゆくとなんとちょうどその紙は品切れであった。
この買い物のために早く出たのに何をしに来たのやら、まだ入荷を待ち最終日に立ち寄ることもできるけれどそれではずいぶんと帰りの新幹線が遅くなる。
かといってすごく大きな紙なので送ってもらうと送料が紙代より高くなるしどっちにしてもお金を払いに画材店に行かなきゃならないのだから同じことなのだけど。
だいたいのお買い物はネット通販でなんとかなるぜと勘違いしがちだけどどうにもならんことはある。
買い物ができなくなったので時間が余った、
なので画材店近くの喫茶店でゆっくりしてみることにした。
喫茶店でひとりでゆっくりするなんて時間、そもそも岩手にいると機会がないし、出張中では時間がない(名古屋出展の場合のモーニングを除く)。
東京価格のケーキセットを意を決し注文する。
久しぶりのショートケーキはふわりと軽く、あっという間になくなってしまった。
歳を重ねて胃が縮んできたなと思っていたけどこういうのならおやつとしてぜんぜんいけるのだなとわかって嬉しかった。
現に夜にはちゃんとお腹がすいたのだ。
珈琲片手に結局仕事のことをなんやかやとしてしまったけれど、ふだんはそんなふうに優雅に仕事することもないのだからこれは都会に出てきたかいがあるというもの。
うちにもしケーキと珈琲が揃ったとしても、ぬげたが絶対にねだりにくるのでゆっくりできないだろう。
近ごろぬげたはあまりにも食べたいものがあると勝手に食べる。
人間の手に持っているお菓子を、その指を傷つけないようにぱっと食べる術を身につけた。
お手もできない犬なのにそういうのは上手になってしまった。
結局大都会に来ても、家族のことを考えている。

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