平和な日
- すずめや

- 6月27日
- 読了時間: 4分
2日前にチェンソーで薪作りをした反動がまだ身体に残っていてガタガタのヨボヨボで朝は夫より遅く起きた。うつらうつらの寝床のなかで夫が猫にご飯を用意する、食器のかちゃかちゃ鳴る音や猫の歓喜の声を聴いていた。
起きると湯が沸いていて珈琲カップが用意されていた。豆を挽いて朝の一杯。
夫は仕事に出かけわたしは仕事をしてから歩いて集落のお花植えに出かけた。毎年の、我が集落の可愛いイベント。自治体主催の環境美化の一環らしいが、プランターにいっぱいマリーゴールドを植えて並べ、みんなで写真を撮る。
歩いている途中集落のご婦人が車で通りがかってLINEの交換をする。ご婦人はおでかけだったので行ってらっしゃいを言う。
8時に集合とのことで、時間きっちりに着いたのにすでに集落のみなさんは集まってなにやらしていた。集まりのとき、岩手の人々は早い。
培養土の袋を開けて、プランターに土をいれて、苗を植え付けていく。トラクターで近所の紳士がプランターを乗せる台を土を寄せて作る。余った苗は分け合って、よっこいせとみんなでプランターを運んできちんと並べ、記念写真。
おしゃべりの話題はヤマビルがいかに気味が悪いかとかちょっとした家族の話とか。お花植えが終わった後、紳士の号令で山の神様の神社に行くと大小のふたつの鳥居のちっちゃいほうが倒れていた。それをみんなでとりあえず解体しようということだが手が余っていたのでボケラと見ていたらヤマビルがやたらいるのに気づいて手あまり組はコンクリートの歩道に避難してまたヒルキモい話をしていた。
全部終わっておしゃべりしながら帰ろうとすると親切なご婦人が家まで車に乗せてくれるという。我が集落ではわたしのうちだけがぽつんと離れた場所にあるのだ。ご親切に甘え、家に着くと窓辺に猫が三匹寝ていた。その後、ご婦人はまたやってきて熊肉を下さった。ご婦人のうちでは薪がたくさん備蓄されていて、それはご婦人のうちのじじばばが山から木を切ってきて作っているんだそうで、我々はそのへんに落ちてた丸太を拾うだけでも重くてヒーコラだったのになぜご婦人のうちのじじばばはそんなに力があるのか、やはり肉を食っているのか、というようなことを聞いたら熊肉を食っているとの返答が来てその流れで。熊肉を食いさえすればわたしの非力も治るかもしれない。
福岡に送る荷物をぎゅうぎゅう詰めて、今日は発送の締め切り日。頑張ったが昼の集荷には間に合わず、とりあえず残りもののカレーを食べてぬげたの散歩に行く。近ごろぬげたは散歩の帰り道で進めなくなって休む時間が増えた。笑顔が幼いので勘違いしてしまいそうになるけれど、もう年寄りだもの。帰り道はぬげたにつきあって木陰でしゃがむ。風が抜けるとぬげたはすこし目を細める。わたしはぬげたの休憩に付き合うけれど、ぬげたはわたしが桑の実をもいで食うことやクワガタを見つけて立ち止まるようなことには付き合ってくれない。行くよと綱をひっぱる。だからわたしもひっぱる。
帰って荷物の段取りがついて、そのほかの細々の仕事もやって、でかい紙に絵の具を広げて、ちょっと畑に出て草取りと石取りをする。近ごろは石取りが妙にたのしく、土をほじくり返しては石を拾い一輪車に積んで捨てにゆく。雨が続いたのと仕事が立て込んでいたのでしばらく土に触れていなかったので夢中であった。
わたしが畑にしゃがんでいるのを認めた通りがかりの紳士が車を止めて降りてきてアイスクリームをパスしてくれた。向かいからやってきたご婦人がビニール袋いっぱいのホタテをくれた。夫が仕事から帰ってきて畑にぬげたを連れてきて、仕事先で拾ってきた珍しい石を自慢された。
仕事に戻ってしばらくすると集落の大工さんがやってきてわらびをくれた。大工さんは訛りがきつくなかなか意思疎通がしづらいが、それでも六割くらいはわかるようになってきたと思う、たぶん。猫が犬と喧嘩をしないかと心配してくれたので猫は犬を殴るというと笑ってくれた。大工さんはわらびをわさび醤油で食べるのだそうだ。それはやったことないから明日にでもやってみよう。
熊肉もホタテもわらびも教えてもらったやり方で料理してそれを食って生き延びる一日が続いていく。
陽は長く、夕暮れに仕事を終える時間が来る。
本当にわたしたちはここに来られてよかった。




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