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執筆者の写真すずめや

よぼよぼ

マリちゃんは調子悪い。

ごはんもあんまり食べなくて毛繕いもしない。

鳴き声もずいぶんか細くなった。

ないないを数えちゃだめだって思うけど湧いてくるないない。

ふりきってしまわなきゃいけない。

なので少し吐き出す。


頭を撫でるとゴロゴロいうので嬉しい。

ゴロゴロは昔と違って体が細かく震えているようなかんじ。

胸の腫瘍にお腹にも水が溜まっているそうで、きっと管が細くなってそういう音になるんだと思う。

くるる、と鳴く。

まだ呼んでくれる。


昨日は一緒に寝ようと台所に毛布を持ってそばで寝転んでみたけどぜんぜん目を合わせてくれず断念した。

マリは体が弱くなってからずっとお勝手口のたたきに寝転んでいる。

暑かったので冷たいコンクリートが良かったのもあると思うけど、ひとりで静かにできる場所がいいんだろうと思う。

お気に入りだった段ボールにはもうずいぶん入ってない。

次男坊がたまに入るからそれでかなと思う。

彼女には高潔なところがあって、たとえそうやってお気に入りがなくなっても文句を言ったり奪い返したりするのではなくただ別の場所をいつも探し当てる。

わたしが部屋で1人落ち込んだり泣いたりしてると距離をとるようなところがある。

しんどいかなしいつらいを寄せ付けないようなところがある。

だからひとりの場所がいいんだろう。


15年一緒にいて、ほとんどの時間を2人で過ごした。

人間としてのものごころがつくかどうか、というような時期からだった。

誰かと3人で暮らした時期もあったけど、マリは誰かと私のマリじゃなくてずっと私のマリだった。

それでも新しい家族になってからは、マリはけっこうみんなと家族っぽくなっていた。

なのにもうすぐマリは別のところに行く。

寂しい、寂しい、寂しい。


いま学芸員をしている大切な友人がいつか、標本を作ってあげられると言ってくれたことがあった。

それはちいちゃな壺に収めてしまうよりも、のびのびとしているだろうし、素敵な考えだと思った。

けどこんなに寂しくては遠く離れた彼女の元まで送り届けること自体ができなさそうだ。


今日は夫が昼間いないのでマリのそばでごはんを食べる。

そばにいると細かく震えて、ゴロゴロいう。

マリが嬉しいと嬉しいけど、寂しい。

心の準備ってどうすればできるんだろう。


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