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猫の目と水族館

  • 執筆者の写真: すずめや
    すずめや
  • 5月9日
  • 読了時間: 4分

昨晩神戸の宿に辿り着き、夕方の搬入までようやくひとりでじっとしていられる時間ができた。

朝ごはんを買い込んで当宿したので今のところ一歩も外に出ていないがそろそろ腹が減ってきた。

お昼を食べるためには外に出なければならぬ。

重い腰を上げて湯に浸かった。


ラシックの搬出を終えて二日の間があり、

その一日めは愛知の実家に世話になった。

その次の日、つまり昨日の朝から京都へ移動。

このブログ初期からちょくちょく登場している美しい猫の目をもつ作家仲間と打ち合わせ兼デートである。

彼女とは長い付き合いだが、そういえば一緒にゆっくり出かけたことがないねということに気づいての計画である。

(鴨川で飲酒したりシャボン玉を吹いたりといったのんびりはしていた)


生き物が見たいぞ、ということで水族館へ。

その前に彼女がお昼ごはんにお弁当を作ってきてくれた。

人に作ってもらったお弁当なんて何年振りだろうか。

生姜焼きに麦飯、ポテトサラダににんじんとピーマンのきんぴら、ながいもとおくらとカシューナッツの甘酢あえ。

このふりかけにハマってるんだと彼女がリュックからふりかけを出して勧めてくれたが、でかいパックまるごとのこんぶのふりかけを出してきたのでこういうとこは本当にかわらないなと嬉しく思った。

お弁当を食べたベンチの周りには人慣れしたすずめや鳩がおり、それぞれの靴の先にすずめが乗ってご飯をおねだり。

鳩ってなんで嫌われてるんだろ、というような話をする。

小さい頃から鳩は美しく愛される存在だと刷り込まれていれば鳩は嫌われないんじゃないかと彼女は言う。

彼女の世界には美しくない動物や可愛くない動物は存在しないのだ。

もちろんそれはその通りだけれど、彼女はそれに輪をかけて生き物を愛している。愛でている。


初めてみるオオサンショウウオの群れ。

目を瞑ったまま同じところをぐるぐる回るオットセイ。

寝っ転がりながら膨れた横腹を自分のヒレでぴしゃんと叩いているアザラシ。

大きな海の水槽の前ではちょうどエサの時間で、魚どうこうよりダイバーさんが潜って吐き出す泡の美しさにやられた。

深い青の照明が、銀色のあぶくを照らして、呼吸とはこんなに美しいものであったかと思った。

ダイバーさんがいなくなってもしばらくふたりでその水槽にへばりついていた。

次の水槽はクラゲ。

そもそもクラゲとはなんだ、と疑問に思い飼育員さんに聞いてみると口と内臓はあるが脳がないということを聞いた。

意思もなく、クラゲがふわふわしているのは水流にのっているからであり、例えば水流がなくなって底に沈んでいても、彼らは沈んでいるということさえわからないのだそうだ。

初めて猫の目の彼女がいのちに怯えるのを見た。

じんわりと、もし生まれ変わっても、クラゲにはなりたくないね、などと話した。

意思のないいのち。


おまちかねのイルカ。

参加型でイルカに芸をやらしてくれるというやつに手を挙げたところ観覧者が少なかったのもあってふたりでイルカに間近で会えることになった。

イルカの目をみてハンドサインをすると鳴いたり回ったり飛んだりしてくれるのだ。

我々はイルカと意思を疎通した!

二重のひとみの大きなベテランイルカは、にっと笑ってこちらを見ていた!

近くで見るとグレーのグラデーションは複雑に重なっていた。

海に生まれた彼と陸上のわたしたちで、どうしてこんなことができたのだろう。

あたまがしばらくぽやぽやとし、猫の目の彼女はどうやったらこの仕事ができるのだろうかと考え込んでいた。

でも嫌われたりしたらやだね、なんて言ったりして。


帰りはのんびり歩いて京都駅までゆき、ラーメンを食べて解散した。


出張に出るといつでもどこか次の場所に行かなきゃならない。

晩御飯はどうして、朝は何時に起きて、朝ごはんはこれにして、出勤して、お客さまの隙を見て休憩をとって、次の目的地は次の目的地は。

そういうことがぽかんとなかった時間が取れたのはものすごくありがたかった。

ぽかんとしている時間を共有できる彼女とならではの時間だった。

何かを取り戻せたような気分だった。



 
 
 

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