風はとても強かった。
海と、空(くう)と、雲と、空(そら)のその先が層になっていた。
はじめのうち、波打つ際は甘やかで、
ゆるく立てた甘いクリームのような感触で浜を撫でていた。
細かい砂が顔を叩く。
遠くの海は群青色、緑がかった層を経て、白い波へと経て経て進んでくる。
雲と海の間のくうは、夕暮れのくれないに徐々に侵食されてゆく。
細かい砂が顔を叩く。
遠くでたくさんの屋根が並んで進んでいく。
煙をあげてゆく。
蒸気機関車がごとごとの道を走ってゆく。
蒸気をあげてゆく。
白いけものが群れをなして向かってゆく。
ほこりを舞いあげてゆく。
夕暮れとなった球体が雲に隠れて、
ひかりだけが見える。
空の端にはもう夜が来ている。
甘やかだった波打つ際は、もう冷え切ったあおいろで、水銀のような端正な顔立ちに変わっていた。
親が子どもの眼を隠すように、夕暮れが海に沈む場所を、雲が隠していた。
雲の小屋の中で夕暮れはひとかけらの明かりを残して、見えないところで沈んでいった。
蝋燭のちいさな灯のようなひとかけら。
赤く焚いた石炭だ。
小屋の中には黄金の光はもはやなく、
天使の梯子もなくなった。
冷たい風と、海と、空のあいだの一つの小屋は、
ただ暖かく燃えていた。
それは遠くで届かない。
焦がれる焦がれた、空。
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