なんかここは…
変なところかもしれない…。
作家仲間のなかで最もお世話になったと言っても過言でない先輩の生まれ故郷ではあるけれども、だから変なところだというのもあんまし、あれだけれども、どうもおかしな喫茶店があった。
創業53年の喫茶丘。
もう店構えからして不穏であり、その店構えを写真に撮って皆に見せるとここはどうも有名な喫茶店だという話。
なので今日は丘にお昼を食べに行った。
丘の店内は銀色のシートで覆われている。
あら隠しに貼った銀色のシートが店じゅうを侵食していったそうだが、それにしても天井まで隙間なく敷き詰められ、貼られており、ホログラムの箔も謎の模様に散りばめられていた。
サイケデリックでまぶしい。
喫煙席はつぎはぎのビニールで覆われていた。
ワープロで作られたとおぼしきメニュー、
給仕はなぜか、インナーカラーのきいたぴちぴちの若い男の子。
店内じゅうに重ねて貼られた丘シール。
丘という漢字を手作業で切り抜いたシールが店の至る所に貼られている。
伝票とともに丘シールがテーブルに置かれた。
触って確認してみたところ、それは折り紙の裏に両面テープを貼って作ったシール。
丘シールは店内の好きなところに勝手にお客が張るみたい。
いくつかの丘シールには〇〇年〇月〇日、丘に来たよ!みたいなご来店記念宣言が書かれていた。
店内の漫画は特に矜持を感じる品揃えではなかったものの、すべてがきちんと整理されており綺麗な状態で本棚に並んでいた。
オムライスとレモンスカッシュを頼んだ。
コメの量が多い。
福神漬けとサラダつきで、多分奥でご老人が作っておられるようで、レスカもいっしょにー!と給仕の彼が耳の遠いだれかに大声で話しているのが漏れ聞こえた。
少々運ばれてくるのが遅かったが、耳の遠い誰かが作っているのなら遅くなったってしょうがない。
しばらく待って運ばれてきたのは、たいへんにきちんとした佇まいのオムライスであった。
誰もが脳内に思い描く、あのオムライスだ。
レモンスカッシュはしっかり生レモンが絞ってあり、シロップが別添え、素晴らしい配慮。
疲れていたのでクエン酸を感じたく、シロップ抜きでいただいたが、とても美味しかった。
店内のセンスと相反している。
謎のタマゴ愛がある。
エッグカレーという目玉焼きつきカレーがメニューに載っていたが、わざわざエッグカレー(タマゴ一個)とエッグカレー(タマゴ二個)が別々に書かれていた。
傍にタマゴ追加は50円との記載があるにもかかわらず。
あと生タマゴは夏季はだめだけどゆでタマゴならいいよと書いてあったり、この世の中の人間が全員タマゴのことが好きだと信じていなければ書けないメニュー。
オムライスを包んだタマゴも、もしかしたら三つ使っているかもしれないというくらいのふっくらとした厚みがあった。
ハンバーグ定食の小さな説明にもタマゴ付き!と書かれていた。
わたしも目玉焼きについてはだいぶ好きなほうだと思っていたが喫茶丘は違うタイプのタマゴ好きだ。
とにかく店内に色が多い。
銀色ベースに無秩序にちりばめられたあまたのカラーがまったくまとまる様子をみせずに好き勝手やっている。
もし丘シールが本当に折り紙で作られているのだとしたら、100色はあるはず。
それに加えて赤や紫のホログラム銀箔のライン装飾。
そしてそれを面白がってやってくる若年層のお客たち。
わけがわからないよ。
山奥に住み始めて本当に思うが、
こういう癖のある店が続いているというのは、
その都市の性格の反映だと思う。
都市にも癖があって、両者は気が合っているんだ。
雫石では喫茶丘は53年続かないだろう。
きっと京都でも続かない。
喫茶丘は岡崎のここだから53年続いたのだ。
個の性格があるように都市、町にも性格はあって、だから、岡崎はちょっと変なところかもしれない。
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