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執筆者の写真すずめや

ものの寿命

こないだお客さまから質問があったので綴じの話。


上製本(ハードカバー)の綴じは、

わたしはあじろ綴じという綴じ方をしています。

背中に溝をつけてそこに製本用の柔らかく固まる接着剤をすり込むやり方。

しかしほんとうの本(物語が印刷されている本)では最も良い綴じ方は糸綴じです。

糸でかがれば製本の手間はとてもかかりますが修復が容易になります。

本の寿命が伸びる。

開きが良いのもいちばんは糸綴じの本だと思います。

でもうちはあじろ綴じ。

なんでか。


まずは手製本で糸綴じの上製本となると手間暇がかかりすぎて1冊何万円という世界になってしまうこと。

高いのがだめやってことじゃなくて、安けりゃいいってことでもなくて、わたしはいままでの人生でそんなに高い作品を買ったことがないし機会もなかったので現実味が薄い。

ご両親が作家さんで、何万円の世界を知ってる作家さんはその高い壁をわりと容易く破れている気がします。

良いものには良い値段が付く、そういう世界。

わたしは作家の世界も商売のやり方も何も知らないまま手が動いていくのに抗えなかった人間なので知らないことと知らないまま進んじゃった道がたくさんある。


もうひとつはものの寿命。

白紙の本、ノートですので、というのがある。

物語の本は何年も何十年も、何人もの手に渡って長く長く語り継がれる。

(もちろん物語でなくとも)

けれどわたしの作りたいのはあなただけの一冊の本なので、寿命はあなたとともにあるぶんだけでいいと思っている。

あんまり長持ちしすぎなくっていい。

うちに秘めたものが、ノートに書いたなにかが宝物になって、それを持って天国に連れてってくれたら最高。


作り出すものの材料は自分なので、

自分が知っている以上のことや感じている以上のことは作り出せないと思っている。

知識も気持ちも体力もぜんぶそうだ。

もちろん思いもかけない素晴らしい絵の具の輝きをみることがあるけれど、それは神さまがたまたま手を下ろしてくれただけのこと。

気まぐれが好きな神さまがいる。


この解までたどりつくのにずいぶんかかった。

何せ手が勝手に動くってかんじで20代を無職(フリーター状態)で突っ走ったので考える隙も余裕もなかった。

でも今思えば、そうだね、そういうことね。

という話。



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