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執筆者の写真すずめや

おじいちゃんと恋の話

肌寒くなってきました。


寒いのが苦手で、過剰な厚着をしてしまいがちです。

ものすごく長いもじゃもじゃマフラーをぐるぐるに巻いていたある冬に出会ったお爺様の話です。


彼はわたしをみて、マイフェアレディと呼びました。

オードリーのあの映画のある場面にこんなもじゃもじゃを巻いているところがあって、そう呼ばれたので、わたしは彼を教授、と呼んでいました。


3年ほど、近所の人でした。

約束はしないのに、ぽかんと空いた時間に交差点ですれ違って挨拶をしたり、スーパーで出会って旬の食べ物について話したり、書店で手に取っていた本について文字通りご教授いただいたり。


彼が弱っていくようにみえたのは、痩せてゆくように見えたのは、気のせいと思い込もうと努力しました。

あまりにも弱々しい瞬間にいつも通りたまたま道端で会って、聞いたのです、名前と、元気か?と。

名前はお互い聞かずにいよう、マイフェアレディ。

めちゃくちゃにかっこつけた台詞のようですが、教授が言うとおはようの挨拶みたいに自然でした。

体は病魔に蝕まれているから、故郷の海の向こうの国に帰って、僕はそこで死ぬだろうと言いました。

映画みたいな金髪の青年ではなく、ほんとに、京都大学で教鞭をふるっていそうな日本人の、ご老人でした。

や、レディ、と、ふと会って呼ばれるたびに背筋が伸びたあの感覚を覚えています。

いつも通り、手を振って別れて、あのあとから一度もお会いできておりません。


昨晩年下の女の子と恋の話をしていて、今夜教授のことを思い出しました。

目があったらちょっと笑って、ジャケットの襟を正して軽く帽子を取ってお辞儀をしてくれたわたしの教授。

彼に恥じない恋をちゃんとしたいな。


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